Angio World

放射線技師目線で、血管撮影装置に関する撮影技術、線量測定や線量管理、学会トレンドや業界ニュースを紹介するブログです。

DRLs 2020 × 血管撮影装置

f:id:angiotech:20210212000411j:plain

 こんにちは。angiotechと申します。

放射線技師目線で、血管撮影装置に関連する情報を紹介しています。

自己学習ゆえ、発信内容に間違いなどにお気づきの際は、ご教授いただけますと幸いです。

ちなみにangiotechの由来は、angiography+technician or technique(放射線技師・撮影技術)からとっています。

今回はDRLs 2020』について書いていきます。

DRL(DRLs)とは

DRL(DRLs)は『診断参考レベル(Diagnostic Reference Level)』の略語です。

DRLは医療被ばくにおける『最適化』の目的を最大限達成するためのツールの1つとして推奨されている指標です。

DRLsはよく間違われることが多いですが、『線量限度ではない』ことに注意したいです。

DRLを超えていないから優れている、DRLを超えているから劣っているというものではありません。

まずは、自施設の装置の線量設定が全国に比べてどの位置・どのレベルで設定しているかを把握・認識する目的で使います。

自施設の線量設定がDRLに比べて多すぎれば、線量過多になっていることが把握できるので、線量設定を見直す機会に繋がります。

逆にDRLに比べて自施設の線量が低すぎれば、本来必要な診断や必要な情報を担保できていないかもしれません。低すぎても見直す必要が出てきます。

各施設によって装置の新古、装置に求める画質レベルも異なりますので、必要な線量設定は変わっていきますので、単に低いから良いというものでもありません。

冒頭でも書きましたが、『最適化』に向けた指標の1つとして捉えるものになります。

DRLの詳細は『DRLs 2015』でも確認してみてください。

angiotech.hatenablog.com

DRL(DRLs)2020とは

 2015年6月にJ-RIME(Japan Network for Research and Information on Medical Exposures)より、本邦初となるDRLsDRLs 2015)が策定されました。

この発表を受けて、医療現場における線量最適化の意識が高まりました。

www.radher.jp

 

そしてDRLs2015の発表から5年の月日を経て、2020年7月にその内容をブラッシュアップした内容(DRLs 2020)が発表されています。

2020年4月からは、線量管理・線量記録の義務化も始まり、DRLs 2020を活用して、用いている機器の性能やプロトコールが最適かされているか管理していく必要があります。

法令化に伴う線量管理・線量記録に関しては別記事で書いていますので、よかったらみてみてください。

angiotech.hatenablog.com

DRLs 2020 × 血管撮影装置

DRLs 2015では、血管撮影・IVR(interventional radiology)領域での線量指標は、アクリル20cmにおける、装置の透視線量率(83パーセントタイル値:20mGy/min)でのみ規定されていました。

DRLs 2020では、装置の基準線量率が17mGy/minへと引き下げされ、新たな項目として臨床のKa,r(装置に表示される患者照射基準点)及びPk,a(装置に表示される面積空気カーマ積算値)が追加されています。

つまり、DRLs 2015では1年に1度の透視線量率評価のみでしたが、日々の臨床における線量評価も加わりました。

また、日々の臨床における線量評価では「術前の脳動静脈奇形に対する診断血管造影」など、手技や疾患群に分類して評価できるようになっています。

ファントムにおけるDRL

アクリル20cmにおける透視線量率の測定方法は、DRLs2015から変更されていません。詳しい測定方法は、『DRLs 2015 × 血管撮影装置』の記事を参照してください。

angiotech.hatenablog.com

DRLs 2020=17mGy/min』です。

この値と自施設の値を比べることによって、他施設との比較を行うことができます。

他施設に比べて、高い場合、また低すぎる場合はなぜそのような設定になっているかを見直すことによって線量の『最適化』をはかります。

臨床におけるDRL

DRLs 2020から、臨床評価も加わっています。

手技別にKa,r(装置に表示される患者照射基準点)及びPk,a(装置に表示される面積空気カーマ積算値)と全国施設の値と比較可能になっています。

血管撮影装置で行われる全ての手技はまだ網羅できていません。

頭部・頸部領域のDRL値

診断血管撮影(術前) Ka,r 〔mGy〕 Pka 〔Gy・cm2〕
嚢状動脈瘤 590 89
脳動静脈奇形 770 160
脳硬膜静脈瘻 1100 190
頸部頸動脈狭窄/閉塞 560 120
急性脳動脈狭窄/閉塞 480 83
頭蓋内腫瘍 720 140
診断血管撮影(術後) Ka,r 〔mGy〕 Pka 〔Gy・cm2〕
嚢状動脈瘤 510 57
脳動静脈奇形 470 77
脳硬膜静脈瘻 820 150
頸部頸動脈狭窄/閉塞 390 72
急性脳動脈狭窄/閉塞 500 83
頭蓋内腫瘍 1000* 77*
血管内治療(IVR) Ka,r 〔mGy〕 Pka 〔Gy・cm2〕
嚢状動脈瘤 3100 210
脳動静脈奇形 4100 410
脳硬膜静脈瘻 4700 430
頸部頸動脈狭窄/閉塞 820 150
急性脳動脈狭窄/閉塞 1400 230
頭蓋内腫瘍 2500 320

*頸部頸動脈狭窄/閉塞は待機的症例

*診断血管撮影(術後)の頭蓋内腫瘍はデータ数僅少につき参考値

成人心臓領域のDRL値

  Ka,r 〔mGy〕 Pka 〔Gy・cm2〕
診断カテーテル検査 700 59
非CTO PCI 1800 130
CTO PCI 3900 280
非 PVI RFCA 560 57
PVI RFCA 645 89

 PCI=Percutaneous Coronary Intervention

CTO=Chronic Total Occulusion

RFCA=Radiofrequency Catheter Ablation

PVI=Pulmonary Vein Isolation

小児心臓領域のDRL値(年齢幅による区分)

診断カテーテル検査 Ka,r 〔mGy〕 Pka 〔Gy・cm2〕
<1歳 100 7
1〜<5歳 130 12
5〜<10歳 190 14
10〜<15歳 350 47
IVR Ka,r 〔mGy〕 Pka 〔Gy・cm2〕
<1歳 150 8
1〜<5歳 210 16
5〜<10歳 210 16
10〜<15歳 500 46

 

胸腹部領域IVRのDRL値

  Ka,r 〔mGy〕 Pka 〔Gy・cm2〕
TACE 1400 270
TEVAR 830 200
EVAR 1000 210

TACE=Transcatheter Arterial ChemoEmbolization

TEVAR:Theoracic Endovascular Aortic Repair

EVAR=Endovascular Aortic Repair

最後に

DRLs 2015と比べて、DRLs 2020のファントムの値は20⇨17mGy/minとやや下がりました。

これはDRLs 2015などによって、放射線検査やIVRにおいて5年間で全体的にやや減少した(=線量の最適化が進んだ?)ことを意味しているかと思います。

国際放射線防護委員会が少なくとも3〜5年ごとのDRLsの更新を推奨しているので、また数年後に改定された内容が発表されるかと思います。