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放射線技師目線で、血管撮影装置に関する撮影技術、線量測定や線量管理、学会トレンドや業界ニュースを紹介するブログです。

DRLs 2015 × 血管撮影装置

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 こんにちは。angiotechと申します。

放射線技師目線で、血管撮影装置に関連する情報を紹介しています。

自己学習ゆえ、発信内容に間違いなどにお気づきの際は、ご教授いただけますと幸いです。

ちなみにangiotechの由来は、angiography+technician or technique(放射線技師・撮影技術)からとっています。

今回は『DRLs2015』について書いていきます。

最新は『DRLs2020』に置き換わっていますので、後ほど『DRLs2020』について書きたいと思います。

DRL(DRLs)とは

DRL(DRLs)は『診断参考レベル(Diagnostic Reference Level)』の略語です。

DRLは医療被ばくにおける『最適化』の目的を最大限達成するためのツールの1つとして推奨されている指標です。

DRLsはよく間違われることが多いですが、線量限度ではない』ことに注意したいです。

線量限度は超えてはならいない線量ですが、DRLは臨床的な必要性があれば超過してもよい値です。

DRLを超えていないから優れている、DRLを超えているから劣っているというものではなく、診療行為の是非を分ける境界でもありません。

まずは、自施設の装置の線量設定が全国に比べてどの位置・どのレベルで設定しているかを把握・認識する目的で使います。

自施設の線量設定がDRLに比べて多すぎれば、線量過多になっていることが把握できるので、線量設定を見直す機会に繋がります。

逆にDRLに比べて自施設の線量が低すぎれば、本来必要な診断や必要な情報を担保できていないかもしれません。低すぎても見直す必要が出てきます。

各施設によって装置の新古、装置に求める画質レベルも異なりますので、必要な線量設定は変わっていきますので、単に低いから良いというものでもありません。

冒頭でも書きましたが、『最適化』に向けた指標の1つとして捉えるものになります。

DRL(DRLs)2015とは

 2015年6月にJ-RIME(Japan Network for Research and Information on Medical Exposures)より、本邦初となるDRLsが策定されました。

www.radher.jp

各モダリティにおける診断参考レベルはDRL、複数の診断参考レベルをまとめてDRLsと称します。

2020年にその内容をブラッシュアップした内容が発表されています。

そこで、2015年に発表されたDRLsDRLs 2015』、2020年に発表されたDRLsDRLs 2020』と呼んでいます。

DRLs国、または地域ごとに、アンケート調査等の方法によって各医療機関から集められた標準体型の患者もしくは標準ファントムに対する代表的な線量に基づき、その線量分布の75パーセンタイル値として設定されています。

DRLs 2015 × 血管撮影装置

DRLs2015における血管撮影・IVR(interventional radiology)領域での線量指標は、アクリル20cmにおける、装置の透視線量率で規定されています。

DRLsは線量分布の75パーセントタイル値に設定されていますが、IVRのDRLは線量分布の82パーセントタイル値に設定されており、その値は『透視線量率:20mGy/min』です。

  • 透視の線量率のみで、撮影などは規定されていません。
  • DRLs策定に伴う調査で、透視線量率と手技のトータル線量と相関を持っていたことから透視線量率でのみの値となりました。
  • 82パーセントタイル値としたのは、懸賞に用いたデータがIVR認定技師を受けている施設のデータを基に作られており、ある程度線量管理が行われている施設のデータであるためだそうです。

測定方法は、以下に記載します。

診断参考レベル運用マニュアルから測定手順を抜粋しています。

赤字で注意点について記載します。

透視線量率の測定手順

  • X線管焦点ー検出器間距離(SDD)は測定目的の検査・IVRに使用している距離とする。なお、一般的な測定ではSDDを100cmとする。
  • 検査テーブル上にファントム(PMMA(アクリル)20cm)と線量計をセットする。測定では被写体からの後方散乱の影響を加味した値が必要であるため、線量計とファントムが密着(近接)するようにセットする。なお、線量計は後方散乱も同時に測定できる電離箱線量計(プローブは3~6cc程度)が望ましいが、半導体線量計による測定も可能である。半導体線量計を用いた場合は後方散乱線の測定ができないため、後方散乱線(後述の注意点を参照)が必要となる。

(寝台の上)ファントムの下に線量計を配置するため、線量計の厚み分アクリルを浮かせる必要があります。電離箱線量計なら約5cmです。アクリルの端を本などを使用して、浮かせます。

マット上にアクリルを配置するのは安定しないため、マットなしで測定しても大丈夫です。

最近、導入されている検出器で多いPiranha(ピラニア)は半導体検出器です。

  •  線量計の測定中心をインターベンショナル基準点(interventional reference point)にセットする。インターベンショナル基準点への線量計のセット方法は、先ず、線量計をCアームのアイソセンタにセットする。アイソセンタはCアーム正面方向にて画面の中心に線量計を移動し、次にCアームを90度回転させ側面方向にてテーブル高さを調整し線量計が画面の中心となるようにセットする。アイソセンタへ線量計がセットされた状態で、X線管側へ15cm近づけた点がインタベーショナル基準点となり、線量計をその位置にセットする。なお、インターベンショナル基準点(interventional referenece point)はIECやJISにより名称が変更され、現在では患者照射基準点(patient entrance reference point)が用いられているが、両社は同じ位置を示す。

アイソセンタを探す場合は、画面中心部のみがみえるように左右の絞りを入れて探すと良いです。また、最大拡大視野で行った方が正確なアイソセンタを発見できるかと思います。

  • 検出器のサイズ、透視プロトコール(自動輝度調整機構(ABC)、パルスレート等)は目的の検査、IVRで使用している設定にする。

インチサイズの規定がありません。インチサイズもその検査で最も使用するインチサイズで良いかと思います。

  • 1分間の透視を行い、後方散乱線を含んだ線量率を測定する。
  • 測定値が照射線量[mR、C/kg]時と吸収線量[mGy]時の例を示す。

D=X・Kp・Ktp・0.00876 (測定値の単位がmRの場合)

D=X・Kr・Ktp・0.003397 (測定値の単位がC/kgの場合)

D=X・Kr・Ktp  (測定値の単位がmGyの場合)

*Kr=線量計の校正定数、Ktp=大気補正係数

大気補正係数(ktp)=(273.2+(測定時の温度))/(273.2+22)・1013/(測定時の気圧)

で求めることができるため、測定時の温度・気圧をメモしておいてください。

また本来出れば、測定機器固有の個体差もありますので、校正定数も加味する必要があります。

半導体検出器にて測定した場合の注意点

  • 検出部の前面以外が遮へいされているため、後方散乱線の測定ができない。
  • 半導体線量計をインタベーショナル基準点にセット後、自動輝度調整機構(AEC)の関心領域の外へ検出部を配置する。関心領域内へ入ると自己吸収により透視条件が高くなり、測定線量も高値を示すので注意すること。

装置上でABCの領域を確認して、ABC内に入らいないように線量計を配置します。

  • 測定値の1.3~1.4倍が後方散乱線を含んだ線量となる。このため、後方散乱係数を1.3~1.4として、測定値へ乗ずる。

方向依存性のある半導体検出器では後方散乱係数を含んでいません。

DRLは入射表面線量(ファントムからの後方散乱を含んだ線量)のため、半導体で測定した場合は後方散乱係数を加味する必要があります。

最後に

 DRLs 2015時点ではファントムでの透視基準線量を測定することのみですが、DRLs 2020では、患者の線量管理にも言及されています。

次の記事でDRLs 2020について書きたいと思いますので、合わせてみていただけると嬉しいです。