Angio World

放射線技師目線で、血管撮影装置に関する撮影技術、線量測定や線量管理、学会トレンドや業界ニュースを紹介するブログです。

CVIT2020 × 詳細

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こんにちは。angiotechと申します。

放射線技師目線で、血管撮影装置に関連する情報を紹介しています。

自己学習ゆえ、発信内容に間違いなどにお気づきの際は、ご教授いただけますと幸いです。

今回はCVIT2020に参加したので、感想を書きたいと思います。

ちなみにangiotechの由来は、angiography+technician or technique(放射線技師・撮影技術)からとっています。

 

 

CVIT2020 概要

CVIT2020は、『一般財団法人日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)☑』が主催する学術集会で、2021年2月18日(木)~21日(日)に開催されました。

angiotech.hatenablog.com

angiotech的に注目したポイントは『パクリタキセル問題(×リアルワールドデータ)』『機能的心筋虚血評価』コメディカルシンポジウム4(各社装置の透視・撮影画像比較)』『dTRA(distal trans-Radial Approach)』の4ポイントです。

site2.convention.co.jp

 

パクリタキセル問題

パクリタキセル問題は、2018年にkatsanoらによる報告を契機に世界的に広がった問題です。

katsanoらの報告内容は、『大腿膝窩動脈においてパクリタキセルコーディングデバイス(PTXデバイス)を用いて治療を行うと、その治療を受けた患者は対象群に比較して5年死亡のリスクが約2倍になる』です。

つまり、バイス固有の問題で長期成績が悪化してしまうという、インパクトの大きなものでした。

これを受けて米国では、FDA(日本で言う厚生労働省)がPTXデバイスの使用に関して厳しい見解を示す一方、日本では、現場医師へのPTXデバイスの使用を委ねる、というもので米国に比べて緩いものでした。

現場医師の意見を反映した通達ではありましたが、なかなかkatsanoらによる報告を否定することはできませんでした。

その理由は、katsanoらによる報告がエビデンスレベルが最も高いRCT(ランダム化比較試験)だったからです。

この問題に立ち向かうため、日本国内では東邦大学医療センター大橋病院中村正人先生を中心に、日本人を対象に『パクリタキセルを用いた末梢血管治療デバイスの長期的安全性に関する研究』が行われ、2021年1月末にその結果が公表されました。

結果は、『本邦では、非PTX機器の使用に比しPTX機器使用による死亡リスクの上昇は認められず、大腿膝窩領域に対するPTX機器使用の安全性を示唆するものと考える』とし、3学会(CVIT、IVR学会、血管外科学会)及び、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)からも声明が出されました。

本内容に関しては、リンク先でご確認できます。

www.cvit.jp

www.pmda.go.jp

声明の中では、

  • 患者状態に鑑みリスクベネフィットを考慮してPTXデバイスを使用すること
  • 海外における情報と合わせ本邦の代表的な成績として今回の成績を用いたインフォームドコンセントを行うこと

としています。

この結果で、ひとまず本邦におけるパクリタキセル問題は1区切りとなったものと思われますが、まだまだ議論の余地があると思っています。

リアルワールドデータ

今回のパクリタキセル問題も契機に、リアルワールドデータ(レセプト・DPCデータ・診療録など実臨床に基づくデータ)の活用が注目を浴びています。

パクリタキセル問題では、RCTの結果(PTXデバイスへのネガティブな結果)と現場医師の感覚(PTXデバイスへのポジティブな印象)が異なることが問題となりました。

リアルワールドデータを活用するうえで、プラットフォーム(検討項目・定義の統一化など)が異なること、各医療機器・デバイスメーカーや産官学の思惑、が問題となります。

実際、中村先生主導の『パクリタキセルを用いた末梢血管治療デバイスの長期的安全性に関する研究』もデバイスメーカー間で持っているデータが異なることが問題となり、結果解析の長期化に繋がったそうです。

今後は、どう臨床現場の情報をいかに活用していけるかが、国外へデータを発信できる強い日本になれるかのポイントになってくるかと思いました。

このリアルワールドデータを活用できれば、質を高めることでRCTに近い発信もできるようになります。また主はRCTで、副として(患者リスクに応じた提案など)はリアルワールドデータ、などの使い分けができるかもしれないですね。

 機能的心筋虚血評価(虚血評価)

 2018年4月、安定型冠動脈疾患に対する待機的PCI(経皮的冠動脈インターベンション:percutaneous intervention)の算定要件に虚血評価が加わりました。

これは、以下のような事柄を参考に改定されたものです。

  • 米国では、2009年にPCIの適正基準の概念(AUC:Appropriateness use criteria)が公表され、2017年には安定虚血性疾患の虚血評価としてFFRが採用されている。下記の治験が基になっている。
  1. CORAGE Trial:安定型冠動脈疾患に対しては、必ずしもPCIを行うのではなく、薬物治療も妥当。
  2. DEFER:FFR(心筋血流予備量比:Fractional Flow Reverse)≧0.75であれば、PCIを延長する治療戦略が妥当。
  3. FAME:血管造影に基づくPCIに比べ、FFRに基づくPCIが有利。
  • 上記の背景を受けて、日本でも「中央社会保険医療協議会中医協)」で安定冠動脈疾患に対するPCIに関する議論が始まりました。下記の内容が議論された1部です。
  1. 日本国内ではPCIの施行数が伸び続けているが、これは世界の中でも特殊な状況になりつつある。
  2. 関連学会のガイドラインでも、虚血がないことが証明されている患者にはPCIの適応はないとされている。
  3. (平成27・28年のデータで)安定冠動脈疾患に対するPCI施工前の虚血検査の平均施行率が37.8%と低い。さらに、院内施行率が0~100%とバラツキが多く、病院間の差が多いことも明らかであった。(院内施行率はハイボリュームセンターなどと相関はなし。)
  4. 血管造影上75%以上である 冠動脈疾患に対して、追加の検査で実際の心筋の機能的虚血の有無を確認したところ、46.4%の病変で虚血を認めなった。

 虚血評価を算定要件として加えたことで、2019・2020年は国内のPCI件数は頭打ちとなってきたようです。

 今後は、患者背景に合わせたモダリティ選択と、虚血部位虚血範囲に応じた適応や治療戦略が問われる時代になると思われます。

コロナ禍でCTの件数が一時的に増えていると思いますが、今後の虚血評価で使われるモダリティの使用頻度に注目していきたいです。

 コメディカルシンポジウム4(各社装置の透視・撮影画像比較)

 各社装置(C・島・G・S・P)のユーザーから、透視・撮影の見え方の違いについて発表がありました。

京都化学社 × 佐藤久弥先生(昭和大学病院放射線技術部)が作成された「動態ファントム」を使用して、周期的に動くワイヤや希釈造影剤の視認性、および臨床画像の見え方や、画質の調整内容について発表されていました。

各社装置は年代もバラバラであったため、どこのメーカーが優れているか、というものではありませんでした。

今後、透視・撮影画質に関しては、京都化学社 × 佐藤久弥先生(昭和大学病院放射線技術部)が作成された「動態ファントム」で評価するのが一般的になるかもしれません。

 dTRA(distal trans-Radial Approach)

近年では、TRA(trans-Radial Approach)は出血性合併症においてTFI(trans-Femoral Approach)より優位で良好であること、STEMIにおいてもデフォルトストラテジーとすべきとの臨床評価が示されており、TRIが世界で標準アプローチとなってきた。

今後は、より低侵襲なdTRA(distal trans-Radial Approach)が標準のアプローチとなる時代が来るかもしれないです。

脳外分野でも、dTRAが行われ始めているそうです。